男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 男だから、女だから。
 そんなことで差別するのは、勿体ない気がする。
 現にキリルは、イネスしか見えていない。彼のいちずで真摯(しんし)な態度や、イネスの幸せそうな顔を見ていると、男だからと一括りにして遠ざけるのは間違っている気がしてくる。

(今まではたまたま、男運がなかったということかしら)

 ためにためた男運がノージーという美女(ただし中身は男)だというのなら、これは神様による救済措置なのかもしれない。

(男嫌いを治すチャンスってこと……?)

 ピケ好みの美女を装った、男。
 しかも、ピケが同じ気持ちを返さなければ消滅してしまうという、爆弾持ち。
 同情するにはうってつけである。

(でもそれって、ノージーの気持ちを弄ぶみたいで不謹慎じゃない?)

「……ピケ?」

 ピケの視線に気がついたノージーが、雑巾を握りしめたまま見上げてくる。
 深い緑色の目が、窓から差し込む光に照らされて宝石のように輝く。
 ピケは素直にきれいだな、と思った。
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