男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

「はぁぁぁぁ……」

 イネスのストレス発散──という名の着せ替えごっこ──に付き合ったあと、ようやくご褒美のお茶にありついたところで、ピケはぐったりと椅子に座り込んだ。
 お皿に盛られたシナモンロール(コルヴァプースティ)を一つ手に取り、おいしそうなシナモンの香りに頬を緩める。

 ふにゃりと表情を和らげたピケに得意のチャイを淹れながら、イネスが「あらあら、深いため息ね」と心配そうに声をかけた。
 齧ったコルヴァプースティをごくんと飲み込んだピケは、眉と眉をムムムと寄せながら、テーブルの上に置いた手を握る。

「特に約束をしていたわけではないのです。でも、それでも! はじめての王都は一緒に行きたかった……」

 次の休みに王都へ行くと言っていたノージーは、ピケを置いてさっさと行ってしまった。
 それはもう嬉しそうに、スキップでもしそうなくらい上機嫌な様子で。

 約束なんてしていなかったし、一人で行動することが悪いわけじゃない。
 けれど、てっきり一緒に行くものだと思い込んでいたピケは、まるで置いてけぼりを食ったようで面白くなかった。
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