今日からニセモノお姫様!





「バレれば即報酬の全額返金を」

「…うっ」


無慈悲な伊織の言葉が私にとどめを刺す。
間違ってもバレるなよ?と言われているような気がした。


「大丈夫ですよ。俺が一から十までアナタをサポートします。さっさとそちらのご飯を食べ終えてください。このあとは乙女様自ら厳選した使用人、特に婚約者候補の方々のプロフィールと彼らとのエピソードを頭に叩き入れたのち、乙女様の思考、喋り方をできる限り完璧に頭に入れてもらいます。今晩は寝かせませんから」

「…え」


全く大丈夫じゃない内容の伊織の台詞に私は冷や汗をかく。

うん。有り難い話だとは思うよ。
私を完璧な乙女様にする為に伊織も一緒に寝ずにサポートしてくれるってことよね?

でもよ?一晩で?そんなことできます?



「いや〜。あの…有り難い話ではあるんですけど一晩でって言うのは無理ですよね?」

「敬語。何度言えばわかるのですか。今すぐ報酬を全額請求しますよ?やる気を出してください」

「っ!そうね!やるわ!いや、やらせてください!」

「乙女様は〝やらせてください〟などと人に願うことなどしません。いつでも上から目線で、他人は自分の為に動くものだと思っています」

「はい!」

「敬語」

「…うん!」



何とかハードルを下げてもらおうとしたが伊織の静かな脅しに私は屈した。
冷や汗自体は止まることはなかったが、何とか表情を引き攣らせながらも私は笑う。

そしてその後は美味しいはずのご飯の味を一切楽しめず、機械的にご飯を口に運んでは飲み込んだのだった。
こんなにも味を楽しめないご飯は初めてだ。











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