偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
その前に、私はどうするべきなのか。頭の中の狭い真っ暗な個室で、時を止めて考えを巡らしてみる。すると、その空間を照らす希望の光をひとつ見つけた。
──あのときの言葉だ。
『これから俺がどんなことをしても、なにが起こっても、その気持ちを忘れないで。俺を信じて、ついて来ると約束して』
冬哉さんと約束した。なにがあっても、彼を信じてついて行く、と。
きっとこのことだ。
「……私。冬哉さんについて行く」
やっと口を開いた私に、全員の視線が集まった。心は張り裂けて、もう迷いはない。
「冬哉さんが好きなの……お腹の子、産みたい……冬哉さんのそばにいたい……」
私がお腹に手を当てると、母が切なげに眉尻を下げた。その顔を見て、我慢できずに目が潤む。
涙がこぼれ落ちる前に、体が浮き、冬哉さんが私を隠すように抱き上げていた。
「一週間後、こちらからコンタクトを取る」
冬哉さんが踵を返して駆け出し、停められた車へ全速力で向かったのを合図に、予想通り、父が靴を履かずに土間へ降りた。
冬哉さんに抱えられた私からは「凪紗!」と叫びながら駆け出す父が見えるが、庭の距離の間に引き離され、見えなくなっていく。
叫び出したいほどの混乱の中、私は自分で助手席を開け、シートベルトに絡まりながらうずくまり、動き出すエンジン音に耳を塞いだのだった。