俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい


翌日、私は朝から荷造りをしていた。

最終的にダンボール三箱で済む私の生活って、どれだけ薄っぺらいんだと我ながら苦笑ものだった。
今週中に済ませる、なんてふんわりした言い方の割に、蒼泉は今日の夕方車で荷物を取りに来ると言っていた。

即ち、昨日が実家で過ごす最後の日だったわけだ。
今日の夜からは蒼泉の家で……と考えると、なんて呆気ないんだろうか。



その日の夕方五時半頃、蒼泉が黒の高級車でやってきた。

二十七年暮らした我が家を出るのは寂しい。
おばあちゃんに毎日会いに来るのも断られたし、なんだか心が落ち着かない。


「どうした。今になって寂しくなったか?」

「いいえ、別に」

見透かされたのが恥ずかしくて、嘘をつく。

「大丈夫だ。俺が毎日愛を与えて、寂しさなんて吹き飛ばしてやる」

「あ、あい!? やめてよ、そんな契約じゃないでしょう」

「契約なんて、ただの託けだ」

「かこつけ?それどういう……」

聞く前に、蒼泉は最後のダンボールを車に積み終えて両親の元へ行ってしまった。

契約はかこつけ?
なら一体、彼の目的は何?

一条蒼泉。彼を深く知るのは、今は何となく怖い気がした。




「では、あやめさんは責任を持ってお預かりします」

お預かりって、私は荷物であんたはロッカーか。

「あやめ、元気でね。 蒼泉さんと仲良くするのよ。近々、マンションにも呼んでね」

「はーい」

最後まで要求が多いわよ。
私は彼と仲良くなんて――

「ええ。私たち夫婦は、どこよりも暖かい家庭を築きます」

ちょっ、なんの宣言!?両親の前でやめてよ恥ずかしい。

「おぉ、それは頼もしい」

「あやめちゃん、元気でねぇ」

最後の最後まで柔らか〜い雰囲気のまま、父、母、祖母に見送られ、家を出た。

< 11 / 56 >

この作品をシェア

pagetop