俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい

社長室の鍵を取りに総務部へいくと、エリカさんの姿があった。
昨日の朝までは、もうこの時点で彼女が社長室の鍵を開け、コーヒーと共に構えていた。
今朝は、総務部で副社長と会話をしている。

その行動の違いが、昨日蒼泉がエリカさんを振ったことを示しているようだった。
彼女とは、正直どんな顔を合わせるか悩みものではあった。

変にこちらから話しかけても、おかしい。
逆にあからさまに避けていても変だ。
やっぱり、普通にするのが最善だろうと思う。
その普通というのが、考えすぎて分からなくなる…なんてことは起こらないでほしい。

ひとり、総務部の入口付近で悶々としていると、副社長と話を終えたエリカさんがこちらに向かってくるのが見える。

その威厳ある態度に思わず身構えるも、あっという間に側までやってきたエリカさんに腕をさらわれ、問答無用で会議室に連れ込まれた。

どうしたものかと思案しながら、ふと彼女の顔を見上げる。
エリカさんは私より、少し背丈がある。
目の前の彼女の印象が、心做しか変わったように見えた。 些細な違和感だ。
なんだろう、と考えていると、彼女は口を開いた。

「もう、蒼泉さんのことは諦めたわ。 昨日最後まで渋ったけど、彼の気持ちは一瞬でも揺らがなかった。 それは私も、二年前から分かってはいたのだけど」

二年前…間違いない。
彼が私を見つけた時だ。

「クールな蒼泉さんが、スーパーのパートに惚れて、ストーカー紛いのことをしだした時点で負けだったのよ。 どうしたって彼を虜にするのは、あなたなの」

まさか、エリカさんが知っていたなんて。
彼女は知っていたからこそ、蒼泉との攻略結婚を迫ったのだろう。
ここ一ヶ月のことも、そうなのだろう。

「これからは、蒼泉さんとは社長と〝副社長の秘書〟として接する。 あなたにとっては良い気はしないかもしれないけれど、それくらい我慢してよね。 どうせ春からは正式に社員になることだし。それから、社長のこと、悲しませたらただじゃおかないわ」

エリカさんは清々しく美麗な微笑をたたえた。
挑戦的にも見えるそれに私も応える。

「はい。 絶対に、悲しませるようなことはしません」

心からの言葉を、言うべきだと思った。
真っ直ぐ見つめて宣言すると、エリカさんは満足そうな表情で頷いて会議室を出ていった。

彼女は、栗色の長かった髪を切っていた。
感じた違和感は、短くなった彼女の髪にあった。
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