花束
彼女は道を進み、墓地へと入る。華やかな花束とは無縁そうな場所だ。しかし、女性は気にすることなく歩いていき、あるお墓の前で立ち止まった。

「久しぶり、仕事が少し忙しくなってしまってなかなか来れなくてごめんね」

墓跡には日本人女性の名前が彫られている。女性はその名前を指でなぞり、その目から涙をこぼした。頬を涙が伝い、地面に落ちていく。

「ごめんなさい。時間が解決してくれるっていうけど、あなたのことだけはいつまでも悲しい……」

時間が解決してくれない問題もある。大切な人をこの世界から失い、永遠に会えなくなってしまった時、簡単にその悲しみを消すことはできない。

女性は泣いた後、チューリップの花束をお墓に飾る。そして言った。

「チューリップの花言葉は、「思いやり」や「愛の告白」。でも色によって花言葉が違うんでしょ?あなたが教えてくれたこと、ずっと覚えてる」

懐かしい思い出に、悲しみや幸せが混じっていく。また泣いてしまいそうなのを堪え、女性は口を開く。
< 2 / 31 >

この作品をシェア

pagetop