DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
エクレアな日々


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正真正銘の「無職」となってからはや二週間。
再就職活動どころか、今後の人生も先行きも不透明。秋風がわびしい独り身に沁みる。

しかし、今日はとことん飲もうと決めていた。

元同期で飲み友だち、安酸 柚子(やすかた ゆずこ)の結婚前祝いなのだ。

柚子は、両親が経営する会社を手伝うため、わたしより一年先に辞めていたが、気が合う飲み友だちとして付き合いを続けていた。

質より量が売りの大衆居酒屋の個室。
ジョッキで乾杯し、喉を鳴らして冷えたビールを味わう。

週末は婚約者と過ごす彼女に合わせ、平日昼間の飲み会となったが、そこはかとない背徳感がいっそうビールを美味しくさせる。


「くーっ、美味い! くたびれた心と身体に沁みるわぁ」

「お疲れのようね? 桃果」

「まあね。十戦十連敗とくれば、どんなに楽観しようともできないよ」


「Souvenir」が最後の営業を終えた翌日。

惰眠を貪りたくなる己を叱りつけ、事務員を募集している何社かに履歴書を送った。

が、面接に至ったのは一社だけ。

それも、実際はすでに採用の目途が立っているので形だけやってます、という匂いがプンプンするもので、まったくの無駄足だった。


「時期も中途半端だしねぇ」

「そうだね……もうちょっと枠を広げてみる」

「事務職以外ってこと?」

「うん」


収入が途絶える恐怖に耐えきれず、焦って応募してしまったが、本音では以前のような事務職は望んでいなかった。

面接にも採用にも至らないのは、そんな気持ちを見透かされているからかもしれない。


「そうね。意外と桃果は接客業が合ってるかもしれない」

「そうかな?」

「あまり決まらないようだったら、遠慮なく言ってよね? うちの会社、サービス系は常に人手不足だし。わたしも、桃果なら自信を持って推薦できる」

「ありがとう。もうちょっと自分で頑張ってみて、ダメだったら相談させて」


藁にも縋りたい気持ちはあるが、紹介してもらうということは、その後何かあった時に紹介してくれた人にも迷惑がかかる。

柚子のコネを頼るのは、最後の手段にしたかった。


「もちろんよ! それにしても……桃果は、厄年かってくらいにいろいろあるわねぇ」

「おっしゃるとおりで」


同棲していたカレシと別れて引っ越して。
予想外の退職、失業。

人間不信に陥って、働く意欲さえ失いかけていたところに差し伸べられた塩原夫妻の手を取り再就職。

そして、現在再び失業中。

たった半年の間に、わたしの人生は激変した。

それでも、大病を患うこともなく健康で、意に染まない結婚に苦しむこともなく、こうして気の置けない友人とビールを飲んでいられるのだから、不幸だなんて言ったらバチが当たる。

人生には楽な時もあれば、苦しい時もある。
虚勢も、張り続ければ本物になる。

強がることを諦めて、今度こそ立ち上がれなくなってしまうのが怖かった。


「もう、わたしの話はやめようよ。湿っぽくなるだけだもん。今日は、柚子の結婚祝いなんだからさ。ノロケ話でも聞かせてよ」

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