DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
昨夜は遅くまでインターネットで求人検索をしていたため、正直眠い。が、二度寝すれば寝過ごしてしまう自信がある。


(ま、ちょっとゆっくり支度できるし……)


三十分、損をしたのではなく得をしたのだと思うことにした。


シャワーを浴び、朝食を取り、化粧に取りかかる。

甘利 桃果(あまり ももか)という甘さ多めの名前ではあるが、見た目は甘くない。

華奢ではないし、色白でもない。百五十七センチ、中肉中背。詳細な体重については、ここ数年ノーコメントで通している。

顔立ちは、あとひと回り目が大きくて、あと少しだけ鼻が高くて、もうちょっと口が小さくて、バランスが整っていれば、美人になれたかもしれない――つまり、平凡だ。

だからといって何をしても無駄と匙を投げるのは、社会人として許されない。

モデルや女優のように、完璧な美しさを問われることはないけれど、接客業に清潔感は大事。
見苦しくないように、ある程度整える必要がある。

ケーキ屋の一番の売りは、「ケーキ」。
ケーキよりも派手なメイクはNGだ。ナチュラルなメイクが相応しい。

しかし、二十八歳ともなると自力では回復、修復不可能なものがいろいろある。
さまざまな機能満載の魔法のアイテムは必須。

そう、ナチュラルメイク=薄化粧ではなく、「ナチュラルに見える」メイク術が必要なのだ。

それなりに時間と手間をかけてメイクを終え、今日はちょっとだけ余裕があるので、マグカップにたっぷり注いだカフェオレを飲みながら、朝のニュースをさらっと確かめる。

それから、歯を磨き、口紅を塗り、肩まであるセミロングの黒髪を一つに束ねれば準備完了。

店舗で制服に着替えるため、通勤時は気候に合わせて動きやすい恰好の一択。

とろみのあるオフホワイトのノースリーブのブラウスに、涼しい麻のベージュのワイドパンツ。足元は、歩きやすさ優先のサンダルだ。

会社勤めをしていた半年前までは、ビジネススーツにパンプスで丸一日過ごしていた。

あの頃は何とも思わなかったが、もう一度スーツを着て満員電車に乗れるかと問われたら、「はい」と断言できる自信はない。

人間、一度楽な恰好に慣れると、元に戻るのは大変だ。
かろうじて、ジャージで出勤するのだけは、踏み止まっている。
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