終わらない夢
翌朝、鈴をもう一度よく覗いてみた。すると、懐かしい風景が見えた。数十年前の綺麗な村の姿。僕は、彼女らが今どうしているのか気になった。だが、いつの間にか風景は全く違ったものになった。
家は焼け、植物は燃え、地面が荒れ果てた姿。乾燥地帯でもないあの村がここまで焼けるとなると、放火を疑う方が早かった。いてもたってもいられなかった。すぐに戻りたかったが、境内からは長く出られない。
だが、ふと思った。僕はあの凄惨な景色をどこかで見たことがある。どこかで。どこかで。…どこか?どこだ?あれを見れる時間はなかったはずなのに、なぜだ。家族は家に潰され、彼女は焼け死に、友人や村のみんなもほとんど死んだ。そんな景色を、僕はいったいどこで見たというんだ。
訳もわからないまま僕は修行に入った。

また数年経つうちに、村の人との関わりは強くなった。僕はただ話し相手になっていただけなのだが、知らぬうちに僕の株が上がっていった様子だった。そんなとき、ある一人の少女が僕のもとへ訪ねてきた。少女は心に傷を負っていた。だから、せめてここが居場所になればと思った。かなり前のことだが、平生から人助けの類は多くしてきたつもりだった。
そのとき、門堂の師匠が口を開いた。
「あの子は、友だちか」
「ええ」
「余計な感情は捨てねばならんぞ」
「…?」
その言葉の意味を知るときは、今までになかった。無礼だが、そこまで大きなものではないと思った。

たしかそれからそう長くない日が経ったとき、新たな住民が来た。僕と同じ紺色の瞳を持つ親子。ふるさとでも、この瞳の色は僕と彼女しか持っていなかった。だから、少しこの人のことが気になった。なにか僕と関わりがあるのではないか。そうでなくても、ようやく人間らしい感情に耽ることができそうだと思った。
翌日、さっそく例の人が来てくれた。僕はいつか拾った鈴を渡し、まずは僕のふるさとやそこにいる人が出てこないかを探った。だが、答えは違った。この人の母親が映った。さすがに家族構成まで知る由はないが、興味がもっと湧いた。

あの人は、話を聞くのがとても上手だ。まるで心のうちを引きずり出されるような感覚さえある。加えて、その仕草や表情、声のトーンや雰囲気…彼女にそっくりで、思い出してしまうことも多かった。もう記憶はほとんど無いに等しいが、この人を見ていると落ち着くのは確かなんだ。
本来、そうさせるのは僕でなければならないのかもしれないが、気を張り続けて狂いそうだったから、少しだけのご褒美が欲しかった。おそらく、こうして怠けられるのも今のうちなんだと思う。
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