終わらない夢
そう言って出たはいいものの、私にはどこがどこなのか全く分からないから、翔に頼るほかないことに気付いた。
「ねえ、阿波路ってどこ?」
「たしかあっちにある隣町。そんな遠くなかったと思う」
「本当だ。標識にも書いてる」
そこまで距離は遠くないが、嫌なものが見えた気がする。
高くそびえ立つ建物に、小さく『5番街』と書かれている。
「…ひょっとして、すごく広いの?」
「いや?」
「だって、あそこに5番街って…」
「ああ、ここら辺は番号で呼ばれることも多くてさ」
「番号?」
「そ。阿波路は5番街、河津は7番街、芦田は6番街って感じかな」
つまり、その番号で呼ばれている街を一通り見たときの面積は、かなり広くなるのだろう。なんというか、誰かが治めているとさえ思えるような体制だと思う。
「でも、何でそんなこと?」
翔はうーんと考えたのちに
「わっかんね!」
とまぶしい笑顔で答えた。それもそうだ。子どもがそんな事情まで知るはずもない。

阿波路へ向かう途中、また翔が寄り道を申し出た。つぎはお菓子屋さんと来た。
「はい、これ!」
「アイス?」
「今日割と暑いじゃん!だから、やる」
「あ、ありがとう」
本音を言うと、私はそこまで暑いと思った覚えはないが、くれると言うならもらっておこう。
そのとき、ポケットに入れていた鈴が何かを知らせるように鳴いた。
「ん…?」
「どーした?」
「……」
嫌なニオイがした。
だれかが映っている。それくらいしか分からないくらいの映像が、そこにあった。
「なんでもない。行こ」
「…?よし、じゃあしゅっぱーつ!」
ポケットにしまって、ふと思ってしまう。なにか面倒なことが起こっているのではないか。私では対処できないような、大きなことが。もしそうなればどうする?私には何の力も無い。おかげで『ふつう』を祈るくらいしかできない。
…何も起きないことを、祈ろう…。
「え?なんで?」
「は?」
目の前で翔がキョトンとした表情を浮かべていた。まるでわんこみたいに。
「そんな難しい顔して、なにブツブツ言ってんの?」
「え、ええと…」
「んな事より、ユーカリ!いまはシゴトチュウだからな!」
ふたたび歩き出す翔を見て、情けないと思う。まだよく知らない子に、お叱りを受けるとは。
もっとしっかりしなきゃ。
「私も、大人にならないとね」
「優奈はまだ子どもだろ?安心しろって!」
「…なんの話?」
「子どもは自由だって話をしてた!」
「いつからそんな話に…」
「聞いとけよなー」
…やっぱり、ちょっと子どもがいいかも。
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