終わらない夢
「夏海さん!これでいい?」
「あら、綺麗……うん。これでいいわ。ありがとね。優奈ちゃんも」
「いえ…」
翔から渡された花を、持っていた花瓶に優しく入れた。ひとつひとつの動作が、全て美しく見えてしまうのは、親がしっかりしているからだろうか。
「よし、じゃあお礼にひとつ、新鮮な情報をあげるわね」
「やったー!」
「…翔?」
「なにー?」
私が聞いていたのは、報酬は選べるということ。なのに、有無を言わさずそれが決まっているのは、どういうことだ。
「あー、報酬の話も、テキトーに考えた!」
「…そんな気はしてた」
聞いた時から、そんな美味しい話はあるかとは思っていたが、的中するとは。私はまだまだ振り回されそうだ。
「最近、芦田の方で妙な動きをする人物がいるって噂でね…」
「よし、優奈、行こう!」
「えっ!?ちょっ…」
私はいきなり引っ張られながら走っていく。話を聞いた途端に、まるで行くことを決めていたように、翔は走る。
「ま、待ってよ!」
「待たない!」
「なんで!?」
「なんでもー!」
…嫌な予感は、当たるものらしい。
「花言葉は、思い出」

しばらく走り続けて、ようやく立ち止まった。やはり元気すぎるほどのその走りっぷりは、私の人生では二度と経験したくない部類だ。
「あっ、ごめんごめん。夢中になっちゃってた!」
「…ごめんで済むかな、これ…」
なんだか、私この前から走ってばかりな気がするなあ…。
「…見つけたぞ」
翔がそう呟いたのを、私は聞き逃さなかった。その声は、歳には似合わない雰囲気を醸しだしていた。ただごとでないのは確かだ。
「か、翔?いったい何を追ってるの?」
「…俺の」
「?」
「俺の、家族を奪ったやつ。どうしても場所が割り出せなかったんだ。でも…ようやく見つけた」
事情を細かく聞くつもりはないが、ここで中途半端に逃げ出すのも、嫌な感じがした。
「…名前は?」
「…分からない。けど、ハザードって呼ばれてる集団の一人だよ」
「グループなの?」
ここまで来たなら、大人に相談したほうが手っ取り早い気がする。
「警察は?」
「行ったさ!!でも、誰も相手してくれなかった。俺のこと見るなり、門前払いさ。どうせ目の前の点数にしか興味がないんだ」
目は怒りと苦しみと、何かに溢れていた。家族を奪われ、大人にも見捨てられ、孤独にさまよっていたこの子はひょっとして、この子は私が思うより、ずっとずっと暗くて苦しくて泣きたいくらいの場所に居たのかもしれない。
『ふつう』を望んでいる私でも、そんな子を目の前に置いて抜け出せるほど、度胸はない。
「私も追ってみる。ハザード…だよね」
「優奈…いいの?」
「私よりも小さな子が、私よりもずっと苦しくもがいてる。それを見過ごしたら、私まで周りと同じになりそう」
今にも泣き出しそうな翔の肩を撫で、優しく鼓舞をする。
「私たちはなんでも屋。なんでもするの」
「へへっ…。そう言ってくれると、信じてた」
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