優しい『君』とおちていく

「……唯愛、落ち着いた?」


「……うん。あの、ごめんね?迷惑かけて。」


七瀬は私が泣き疲れるまで背中をさすってくれた。

だから迷惑だと思ったのに。


「迷惑じゃないし。……辛かったよね。でもさ、それってちゃんと愛してたってことじゃん。」


やっぱ、七瀬は普通の人とは違う視線から見れるんだなぁって。


「……でも、今気づいても、何も変わらない。」


こんなこと言ってうざいかもしれない。


「うん、変わらない。」


……っえ、


「でもさ、次からは大切な人を失わないように努力できるじゃん。」


……確かに。

あっ。


「優くんのお母さんたちって……?」


「買い物行った。ついでに唯愛のことも話して同居OKだって。」


さっきまでの七瀬とは違う。

仕事が早いな。


「あっ、そうだ。さっき俺のこと『優くん』って言ったじゃん。」


「あ、えと、それは……」


出来れば、掘り返さないでほしかった……


「これからもそれ呼んでほしいなぁ。」


でも、私の中の七瀬は七瀬なんだもん。

その呼び方の方がしっくりくるし。


「……嫌だ。」


「っえ、」


ほら七瀬慌ててる。


「七瀬は七瀬って感じがするし。」


「ま、まあ。……じゃあ俺は柊って呼べばいいですか。」


え、何その解釈。


「それは違くない?」


「同じだけど。」


と七瀬が笑いながら言ったので、私も同じように笑う。


「まあでも、七瀬でもいいかもな。」


そう言って微笑む優しい七瀬が好き。
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