料理男子、恋をする

見たものは

家に帰った佳亮は、窓から薫子の部屋の明かりを眺めて考えた。これは、本格的に薫子との関係を清算したほうが良いかもしれない。佳亮にとって薫子は恩人だったが、薫子にとっての恩人は、今はシェフの平田だし、佳亮が薫子に依存しすぎるのは良くない。何より、薫子の自由を、佳亮の『恩人』という独りよがりによって奪ってはならない。

そのことを、何時言い出そうかと考えていたある日に佳亮が見たのは、薫子のマンションに横付けされた、白のランボルギーニから降りてくる薫子だった。何時もの薫子のフェラーリじゃない。そして薫子は助手席から降りてきていた。車から降りた薫子は運転席に回って、ドライバーと親しげに話していた。そして、ドライバーから頬にキスを受けると…、薫子もキスを返していた、そして薫子はマンションに入り、車はマンションを去っていった。

それを部屋の窓から見ていた佳亮は、思わぬ動悸に後ろ手でカーテンを勢いよく閉めた。

「………っ!」

どくんどくんと鼓膜の奥で心臓がうるさい。心なしか、頭に血が上ってない気がする。目の前が暗くなり、佳亮はその場にへたり込んだ。胃の中がぐるぐると気持ち悪い。

(……恋人が、居ったんや……)

今見た光景が脳裏を何度も横切る。あんなに一緒に居たけど、薫子は佳亮に恋人の存在をほのめかしたりしなかった。何故言ってくれなかったのだろう。言ってくれれば、誤解を招くような、二人っきりで食卓を囲むようなことは止めていたのに。

(止めれた、やろか。…ホンマに…?)

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