料理男子、恋をする

「兄さん、ごめんなさい。兄さんには何時も迷惑かけちゃうわね」

「何を言うんだ、薫子。愛しい妹が挑戦しようとしていることを、俺が応援しないわけがないだろう?」

心配ないよ、と言うように、樹は薫子を抱きしめた。樹は薫子よりも背が高く、身体もがっしりしているので、背の高い薫子も腕の中にすっぽり収まってしまう。

「それに、父さんも母さんも薫子が心配なだけで、本気で反対しているわけじゃないよ。もし本気だったら、お前の一人暮らしだって認めないだろう?」

樹に言われて、そうかもしれないと思った。父が本気で反対したら、あの部屋から強制的に追い出されそうだ。

「そうね…。そうかもしれないわね」

少し安堵した薫子に、でも、と樹は付け加えた。

「母さんの心配は、俺は少しわかる。きれいな手が傷だらけじゃないか。もっと身体を大事にしてくれよ」

まるで佳亮と同じことを言う。佳亮が兄と同じくらいの愛情をもって薫子と接してくれたらどんなに良いだろう。でも、佳亮には恋人が居るからそれは望めない。せめて、食事を作ってもらえる間は、それに甘えていたかった。
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