料理男子、恋をする

「あ、本当だ。あのとき、おっきい目の人だなあって思ったんだ。先刻は道が暗くて分からなかったなあ」

もうコンビニの明るいライトが足元にも届いている。彼女はその明かりで佳亮の顔を確認したようだった。なんだか、印象的な顔だと言われているようで、ますます恥ずかしい。

「…そ、それ言ったら、貴女のほうがきれいな顔で印象的ですよ。全体的によれてたのに、きれいやなあって思いましたもん」

「あはは、よれてたっけ? まあ、残業続きで疲労困憊なのは何処の会社でも同じでしょ」

「まあ、そうですね。僕も初めてお会いした時は、自炊諦めてコンビニ飯でしたから」

佳亮が言うと、彼女は「自炊すんの! すごいね!」と驚いてくれた。佳亮の自炊にプラスの意味で食いついた女性は初めてだった。

「…しますよ。東京は物価も高いし、安月給じゃ毎日外食ともいかないし…。今から買いに行く卵も、明日は絶対ハムエッグって決めたんで」

「へえ、すごいねえ。貴方は上京組なのね。…っと、こんな風に話してるけど、そういえば名前を聞いてなかったわね。私は大瀧薫子。貴方は? 出身は何処なの?」

路上で急に自己紹介が始まってしまって焦る。

「あ、僕は杉山佳亮です。出身は奈良で、こっちに来て五年になります」

彼女、薫子は佳亮の自己紹介に、ふうん、と微笑(わら)った。

「五年のキャリアなら、相当の腕前ね」

薫子の言葉に口ごもる。佳亮の様子がおかしいことに気付いたのか、薫子が、どうしたの、と問いかけてきた。佳亮は努めて明るく言う。

「い…、いやー、僕、料理男子なんですよねー。料理男子って、女の子受け悪いみたいで、よお料理が原因で振られました」

学生の頃、良く持ってきた弁当の内容の違いに驚かれて、自分と比べられると嫌だと言われた。佳亮が料理上手なのは、幼い頃から忙しかった両親に代わって弟妹の食事を作っていたからだ。弟妹に美味しいと言ってもらって満足していた時期は過ぎ、気付けば自炊は佳亮の欠点となっていた。それでも忙しく働く両親を支える為、料理は続けた。就職すれば解放されるかと思ったけど、思わぬ東京での独り暮らしに自炊せざるを得ず、今に至る。

そんな理由など知らない薫子が、そんなことないわよ、と励ましてくれる。

「ありがとうございます、気ぃつこてもろて。でも世間ってそんなもんなんやなーってわかりましたし、いい勉強になりました」

「何言ってるのよ、料理好きは十分アドバンテージよ。特に今は共働き世帯多いんだから、男性が料理してくれたら相手の女性だって嬉しいでしょうに」

薫子の力説も佳亮には届かない。

「田舎だったので、男は外、女は家、みたいな風習が残ってて…。それで育つともう価値観変えられませんよね…」

あはは、と空笑いで会話を収める。薫子はもったいない、とぶつぶつ言っていた。
ぶらぶら歩きながら話していて、コンビニに着いた。佳亮は籠に卵のパックと煮卵のパウチを入れた。

「? 卵に卵?」

薫子が佳亮の籠を見ながら疑問を浮かべる。会計をしてもらった佳亮は袋を別々にしてもらってからコンビニを出ると、煮卵のビニール袋を薫子に差し出した。
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