料理男子、恋をする

「ありがとう、佳亮くん……。あの時は仕方ないわ。私も情けないところ見せちゃって、ごめんなさい」

頭を下げた薫子に、佳亮は慌てた。

「情けないなんて、そんなこと言わないでください。強くてカッコいいのは薫子さんの美点ですけど、だからと言って、僕の前でまでそうでなきゃいけないことは、ないです」

勿論、無理に弱音を吐けと言ってるわけではないですけど。

あくまでも自然体で居て欲しいだけなのだから、薫子にはこれからも飾らないで居て欲しいと思う。そう伝えると、嬉しいわ、と薫子が言った。

「やっぱりこの部屋に住んでよかった。佳亮くんに会えたもの」

薫子が振り返って窓の方を見る。あの時、ベランダに居た薫子を佳亮が見つけた。あの時に薫子が降りてきてくれなかったら、この恋は始まっていなかった。やはり薫子の行動力でこの恋が始まっている。家を出て一人暮らしをし始めたのもそう。卵を落とした佳亮のところへ降りてきてくれた時もそう。オムライスを作ってくれた時もそう。全部全部、薫子が行動してくれたからだ。

「薫子さんばっかりに任せていられませんね。僕も、行動しないと……」

佳亮の言葉に、薫子がふふ、と微笑った。

「佳亮くんは、何時だって私のことを支えてくれてるわ」

そうですか? と問うた佳亮に、薫子がそうよ、と返す。

「私が私のままで良い、って気付かせてくれたの、佳亮くんが初めてなのよ」

社長だって知られた後も、あの屋敷を訪れてくれた後も、佳亮は変わらなかった。それが救いだったと言う。

そんなことで良かったのか。若干気が抜けてしまうが、お互い素の部分を必要としているのなら、それが一番いいのかもしれない。佳亮はそう思った。


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