契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました

古い時計と彼の想い


「今日まで私を支えてくれてありがとう」

 ひとり暮らしを始めてから五年間、お世話になったマンションに別れを告げる。私の五年間の喜びも悲しみも知っているのはここだけだと感慨深いが、いつまでも思い出に浸っている場合ではない。

 マンションに一礼し、回れ右して後ろを向く。目の前の大通りにブラックメタリックの高級車が停まっていて、助手席のところで大吾さんが待ってくれている。

「忘れ物はないか?」
「はい。大丈夫です」
 
 笑顔で答え、小走りに駆け寄る。もう少しで大吾さんのところ……という場面で、歩道のちょっとした段差に足を取られ前のめりに転倒しそうになってしまった。

「あっ……」
 
 小走りしていたから勢いがついていて、体勢を立て直すのは無理。このまま派手に転ぶの確定、大吾さんの前で恥ずかしい……と思いながら次に来るであろう衝撃に備えて身を固くした私の身体が、ふわりと軽く宙に浮く。

え、なに? なんなの?


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