契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「ご馳走になってしまって、ありがとうございます。とても美味しかったです。今度はもっとゆっくり、和子さんと話がしたいです」
 
 大吾さんとふたり、本当に時間を忘れてゆったりをした時を過ごすことができた。でも楽しい時間はあっという間に過ぎて……。

「あ……」
 
 自分の言い過ちに気づき、小さく声をあげた。面白くもないのに「あはは」と乾いた声で笑い、その場を取り繕う。

「すみません。私ったら何を言って──」

 今度なんて、あるかどうかもわからないのに。

 でも和子さんと会いたいという気持ちが自然と溢れ、抑えられなかった。いや、そんなことも気づかないうちに、勝手に口が動いていた。

「そんな顔をするな」
 
 大吾さんの言葉に、顔をそむけるように俯く。そんな顔なんて言われても、自分が今どんな顔をしているのかわかるはずがない。

「何度だって連れてきてやる。また一緒に、うまいものを食べよう」
 
 また一緒に……。本当なら嬉しくて期待に胸膨らむ言葉なのに、一方ではあと何回来られるだろうかなんてつまらないことを考えてしまう。

「はい」
 
 でも自分で決めた契約結婚なのだから、ここでとやかく言うつもりはない。それに私たちの関係は、まだ始まったばかり。

 紙切れ一枚のことだとしても、私は大吾さんの妻……なのだから。






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