契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 失敗した。こんなこと、言わなければよかった……。
勝手に後悔して落ち込んで大吾さんから目を逸らし、もう一度マンションを眺める。
 
 眉間にしわなんて、大吾さんにあんな顔をさせたくて言ったわけじゃない。これからの生活の拠点を目の当たりにして、私で本当にいいの?とか迷惑じゃない?とか、一気にいろいろな不安が押し寄せてきてしまった。

「急におかしなことを言ってすみません。今私が言ったことは忘れてください」
 
 顔を笑顔に戻し大吾さんのほうへ振り返ると、いつ間にか眉間からしわは消えていて、ほんのわずか口元に笑みを浮かべている。

「誰が何と言おうと、八重は俺の妻だ。いいか、それがすべてだ。まあ誰かにとやかく言わせるつもりはないけどな」
 
 私の右手に大吾さんの左手が重ねられ、胸がドキンと音を立てる。『だから安心して俺のそばにいろ』──目がそう語っているようで、心がじわりと温かくなる。
 
 かりそめの妻でも、妻は妻。そうさっき誓ったばかりなのに、私の中の弱気な心はすぐに顔を出してしまう。
 
 重ねられている手を裏返し、大吾さんの手をそっと握った。すると小指をぴくッと動かした大吾さんも、私に応えるように手を握り返してくれる。

「マンションに着いたら、今後のことをゆっくりと話そう」

 大吾さんはそう言って穏やかな表情を見せると、ゆっくりと車を発進させた。



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