秘密のschooldays
保健委員の彼女が保健室の扉をノックして、一緒に室内に入る。沢渡先生が、どうしたの、と椅子から立って様子を見てくれた。付き添ってくれた彼女は、保健室に沙耶を預けてしまうと、さっさと体育館に戻っていく。沙耶は、沢渡先生に促されるままに丸い椅子に座った。

「どうしたの? 頭ぶつけた?」

「あ、はい。あの、後ろを体育館の壁に」

説明ついでに、この時間いっぱい休ませて欲しいと言うと、沢渡先生は承知してくれた。ベッドに横になると、先生はお茶を買ってきてあげる、と言って保健室を出て行く。

…のは良かったけど、出て行く直前に、心臓が飛び上がる言葉を残していった。

「崎谷先生。岡本さん来てるから、気をつけてあげて」

思わず横になっていた体を、勢い良く持ち上げてしまう。すると、また視界がくらっとして、沙耶はベッドに腕をついた。

あーとか、うーとか、多分そんな感じの声に、本当に崎谷先生が居ることが分かる。声はカーテンで仕切られていた反対側のベッドから聞こえた。

(…ちょ……! ど、どうしよ……)

半分起きかけて腕をついた状態で、沙耶はパニックになっていた。頭の中がまだくらくらするし、動けないのだけど、向こうのベッドからはカーテンの擦れる音がして、呼ばれた崎谷先生が顔を出す。沙耶は俯いたまま、ゆっくりと、本当に慎重にゆっくりと体を横にする。そろりそろりとベッドに上半身を横たえて、そして崎谷先生から顔を隠すように壁際を向いた。

「頭ぶつけたって?」

先生の声がベッド脇から聞こえる。とてもじゃないけどまともな返答は出来ないから、目をぎゅっと瞑ってじっとしていた。返事のない沙耶のことを、先生は少し待って、それから不意に後頭部に触れてきた。

「…ゎ…っ!」

思わず声が漏れてしまった。先生の手はそっと沙耶の頭を撫でて、それから離れていった。

「冷やさなくて良いのかな…」

そう言って、先生は保健室の棚をがさがさしている。でも、沙耶の耳には爆発しそうな心臓の音しか聞こえていなかった。

「岡本、ちょっと、頭上げて」

気付かないうちに崎谷先生の声が、またベッド脇でする。言葉と同時に額から左こめかみの辺りに手を差し入れられて、もう沙耶はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

促されるままに顔を仰向きにさせられる。後頭部にひんやりした感触が伝わって、それが余計に崎谷先生の手のひらの温度を意識させていた。

手が離れていくと、沙耶はまだ傍に居る先生の視線から逃げるように、顔を腕で覆い隠した。もう遅いとは思うけれど、こんなに熱の集まった顔を見られているのは堪らない。ベッドの脇に立てかけてあったパイプ椅子を広げる音がした。


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