初めて泣きたくなるくらい好きになった

別れと出会いなんて、そんなもん。

「成績を伸ばすなら、ここ!ヒナ個別塾!」
 聞き慣れたフレーズに、聞き慣れた塾の名前が、テレビから流れる。
 わたし、井上真美は中学2年生の時からお世話になっている、通称ヒナ塾の生徒だった。って、こんなゆっくりしている場合じゃない!
「いってきまーす!」
 家の鍵を閉め、マンションのエレベーターに勢い良く入り込む。見慣れない自分の姿が、エレベーターの窓に映り込み、少し気恥ずかしくなる。スーツを大学の入学式より前に着てしまうなんて、思ってもみなかった。

 いつも通りのルートでヒナ塾に向かう。多分誰よりも多く足を運んでただろうなと笑ってしまう。1ヶ月前のわたしは、スウェットにサンダルというなんとも言い難い格好であったのに、今はどこに行っても恥ずかしくない就活生のような格好だ。ヒナ塾に着き、ドアを開けると同時に口を開く。

「せんせー、こんにちはー。」
「おぉ、こんにちは。久しぶりって言いたいところだけど、そんなに久しぶりな感じないね」

 と、苦笑しながら教室長の椅子から立ち上がったのは、ここの教室長の羽田俊樹だ。羽田先生とは、高校2年生の時からだから、約2年間お世話になった人だ。そして、羽田先生はこれからは上司になる。

「そういえば、井上は、これからは先生になるんだな。」

 茶化しながら言う羽田先生に対して「失礼だな!」と突っ込みながらも、「それな〜」なんて軽く思ってしまうあたり、自分も自分に茶化してしまっている。
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