君のブレスが切れるまで
 大きな声が教室に響き渡り、静寂が包む。
 そう、この言葉だ。一方的にそう言われると、子どもは不満が溜まる。相手のことを嫌だと思い始める。だから今こそ煽動(せんどう)する。
 あたしは口ずさみ始めた、今度は授業に関係のあることを。


『そもそも、先生の授業ってわかりにくいんですよね。自分が嫌な時はこうやって大声を出すくせに、普段は何言ってるか聞こえないし、文字も小さくて読めなーい。みんなはそう思わない?』
『私も思ったーあやかちゃんに賛成』
『俺もー! 先生、何言ってんのかわかんねーし。なんかムカつくー』
『ね? せんせー辞めたらー? 向いてないんじゃない?』
『ど……どうして……そんなこと……』


  
 面白いように事が運び、笑いが出そうになるがここは我慢のしどころ。口角をあげるだけに留める。
 もう既にこの教室はあたしの独擅場だ、先生を弄ぶには十分すぎるほどの力を持っている。
 そこで、一つ提案する。


『ねぇ、みんなで職員室へ行こうよ。教頭先生とか校長先生に言いに行けば、宮村先生ももっとわかりやすい楽しい授業にしてくれるかもしれないよ』
『わ、楽しそー!』
『それいいなー! よし、行こうぜー!』
『ちょっと……待って……ま、待って! みんな待って! 先生の話を聞いて!』


 本当に馬鹿だ、子どもも大人も馬鹿ばかり。同い年だろうが授業よりも面白いものをあげれば、こうやって食いついてくる。
 先生はというと、このままでは不味いと思ったのかあたしたちへと頭を下げてきた。


『みんな、ごめんなさい……先生、もっとちゃんとするから。お願い、早乙女さん。みんなを中へと誘導して……』


 恐らく止められるのはあたししかいないって気づいたのだろう。この時、あたしは初めて大人を屈服させた快感に打ち震えた。


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