溺愛予告~御曹司の告白躱します~
「いや…」
「なんだー残念。やっぱ莉子に吐かせるしかないかー」
なんだか隣の彼女がやけに楽しそうなのが気になる。
私よりも水瀬の方を見てニヤニヤしてるし、一体なにを考えているのやら。
吐かせるだなんて怖いことを言いながらこちらに向き直った亜美だが、隣のテーブルからお呼びがかかるとグラスを持ってあっさりと行ってしまった。
待って待って。
どうしてくれようこの空気。
この一ヶ月仕事を通して向き合ってきたからずっと目を逸らしていられた問題が、今まさに眼前に迫っている。
さながら八月最終日に何も手のつけられていない宿題を目の当たりにした学生の気分。
手持ち無沙汰もいいところで、どうにも間が持たず手元のレモンサワーを口に運ぶ。
「…あ、水瀬、飲み物は?」
「もう頼んだ」
ぶっきらぼうに答えが返ってきたのと同時に、テンションの高めな大学生くらいの男の店員さんが「おまたせしましたー!」とビールを運んできた。
受け取ったそれに口を付けるでもなく、水瀬はじっと前を見据えて何か考えたまま。
隣のテーブルでは主役の亜美がなにやら旦那様になる人とのことを赤裸々に語りだしたらしく、ヒューッと囃し立てるガヤまで飛んで盛り上がっている。