純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
悪戯一夕

 朝を迎えた妓楼では、まだ薄暗いうちから、遊女は一夜を過ごした客を見送る。皆が後朝(きぬぎぬ)の別れを行い、再びつかの間の眠りに落ちる頃、睡蓮はむくりと上体を起こした。

 昨夜の秀麗な男の姿や声が頭から離れず、まともに眠れなかった。まさか、今日が廓で迎える最後の朝になろうとは。いまだに現実味がない。

 あの人は、本当に自分にひと目惚れしたというのだろうか。あのときの微笑みを思い出すだけで胸が騒がしくなるが、どうにも信じがたい。

 とはいえ、これは決定事項だ。彼の言葉が本心であろうとなかろうと、睡蓮は彼についていかなければならない。

 あれから九重は身請け金だけ置いて帰っていき、今日の昼前に迎えに来ることになっている。

 睡蓮は約束の時間になるまで荷造りをしたり、朝風呂に入ったりして身支度をする。身請け話は早くも廓中に広まっており、興味津々な遊女たちに絡まれて少々大変だった。

 花魁になった睡蓮は、これまで玉響がしていたのと同様に、振袖新造の娘の面倒をみていた。

 その妹女郎は、わずか数週間で睡蓮と離れることを嘆きながらも、最後の支度を手伝った。可愛い妹女郎との別れを、睡蓮も寂しく思う。
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