純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 愛する夫を喜ばせたい一心で覚悟を決めた睡は、どうするのが相応しいか思案する。まずは、窮屈そうなネクタイかベルトを外すべきだろうか。

 とりあえず、じっと待っている時雨の首元へ遠慮がちに手を伸ばす。鼓動がどんどん速まるのを感じながら、包装のリボンを解くようにネクタイを外そうとした。

 ところが、想像していたようにするりとは解けず、むしろぐっと締まってしまい、時雨の表情がやや不快そうに歪んだ。


「あっ、すみません! あれっ、どうやって取るんでしょう!?」


 睡はあたふたして、ネクタイをいろいろな方向に引っ張ってみる。

 芸や行為についての勉強はしていても、ネクタイの解き方など教えてもらったことがない。大正時代からモダンな服装が流行り出したとはいえ、まだまだ着物を着ている人も多く、スーツを着て遊郭に来る者はそういなかった。

 まるで飼い犬の紐を引いているような滑稽な状況に、時雨は堪え切れずにぷっと噴き出した。

 どんなときもきりりとしている時雨が、おかしそうに声を出して笑うことは滅多にない。後ろに手をつき片膝を立て、くつろいだ姿で美しい顔をほころばせる彼に、睡は自分の失敗を一瞬忘れて魅入ってしまう。
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