純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
暇乞遊郭

 襖の向こうで、艶めかしい吐息と、肌がぶつかり合う音に交じって、男女の睦み合う声が聞こえた。

 姉女郎の世話係として仕えている睡蓮(すいれん)は、情事の淫らな響きが耳に入ってくるのはいつものことなのに、足を止めてつい聞き入ってしまう。

 中の座敷にいるのが誰かはもちろんわかっている。姉女郎の花魁である玉響(たまゆら)と、彼女の馴染みの客、瑛一(えいいち)だ。

 玉響は、大見世(おおみせ)と呼ばれる高級なこの妓楼の中でも、最も美しく人気のある花魁である。歩くだけで色香を漂わせる彼女が、大きな瞳を潤ませ、紅をひいた唇で微笑めば、虜にならない男はいない。

 そんな玉響に素の笑顔を浮かべさせられるのは瑛一だけだと、彼女が行う宴会に同席する睡蓮は知っている。

 呉服屋の若旦那である瑛一もまた容姿は人並み以上で、羽振りも愛想もよく、ついでに床上手なのだとか。他の花魁と浮気をすることも一切なく、玉響ひと筋なのも好印象な男。

 だから、ふたりがただの花魁と客の関係ではなく、愛し合っていたとしてもおかしくはない。それが、この世界ではご法度だとしても。
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