呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「薬棚の魔瘴核(ましょうかく)の欠片についてだが……ヨハル殿に教会で保管している魔瘴核の数を確認してもらったが紛失は一つもなかった」
「それだと薬棚にあった魔瘴核との辻褄が合いませんね。本当にそう仰ったのですか?」

 次の話題もしっかりと聞いていたキーリは訝しがった。

「ああ。魔瘴核が紛失したという報告はヨハル殿が大神官になってからは一度もない。……それがあったのはヨハル殿が大神官になる前の話だからな」

 キーリとカヴァスの二人が揃って疑問符を浮かべている。
 イザークは先ほどヨハルから聞いた話を二人にも話した。





 それは二十年前まで遡る。中央教会では蝋燭の不始末による火災が発生した。集会室や大神官の書斎が燃えてしまっただけでなく、地下にある禁書館や保管室の一部までもが被害に遭った。

 火は数時間後に消し止められ、神官たちが手分けして禁書館の書物と保管庫の聖物を聖堂内に運んで被害を確認することになった。神官が聖物の数を数えていると魔瘴核が一つ消えていた。
 その原因が火事による消失なのか、それとも誰かによる窃盗なのかは分からない。

 神官は当時の大神官に報告し調査を依頼した。しかし、責任の所在を恐れた大神官は取り合ってくれなかった。さらにその神官は真実を語る前に王都のハルストンから遠い田舎の教会へ異動させられた。

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