呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 報告を終えた文官はまだ残りの仕事があるようで医務室から出て行ってしまう。

「どうしたんだ?」
 扉が閉じられたと同時にイザークが動揺しているキーリに声を掛ける。すると、彼は困惑した様子で顔を上げた。

「それが、井戸の底から見つかった魔瘴核の欠片はため池にあったものと一致しているんです。しているんですが……清浄核に変わっているんです!!」
 袋からキーリが取り出した物はため池で見つかったものと同じように組紐文様が編み込まれた卵ほどの大きさのある清浄核だ。魔瘴核を浄化できるのは、この国の聖女のみとされている。
 そこでイザークは思案顔になる。

(ロッテの時も魔瘴核が含まれた魔力酔い止めの薬が清浄核に変わっていた。またユフェがやったのか? いい加減、浄化ができることは教えてくれてもいいはずなのに隠そうとする理由はなんだ?)

 一同が黙り込んで清浄核を見つめていると、フレイアが「あのう」と言って小さく手を上げた。

「実は、倒れる直前にずっと悍ましい声が頭の中で響いておりましたの。それもおかしな話ではあるのですけれど。声はわたくしに『聖女を殺せ、早く殺せ』と命令していました。ユフェ様が聖女様であるわけないですし、幻覚なのだとしても変ですわよね」


 その言葉に衝撃を受けたイザークは突然リアンの言葉を思い出す。

「……すぐにユフェのところに行こう。それからキーリ、至急中央教会へ連絡して神官を呼んでくれ」
「仰せのままに」

 キーリが胸に手を当てて返事をしていると、廊下から慌ただしい足音と、時折悲鳴が聞こえてくる。何か新たに情報が分かったのかもしれない。そう思ってキーリが扉を開けると、そこには息を切らしたロッテと足下には十数匹の野ネズミやリスがいる。

「どうしたんですか?」
「お取り込み中であることは重々承知しています。でも一大事で! ユフェ様が、ユフェ様が怪しげな神官に攫われてしまったんです!!」


 驚いた拍子にキーリの手から清浄核が滑り落ちる。
 カランと音を立てて転がるそれは鈍く光っていた。

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