呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 ルーカスは真摯にそれを受け止めると夜明け前に中央教会を去って行った。
 見送った時、ルーカスはさっぱりとした顔でシンシアに謝ってきた。
 もちろんシンシアはルーカスのことを許すつもりでいたが、口を開く前に彼の手に遮られてしまった。一からやり直して戻ってくるまで許しの言葉はお預けだと言うので、それに従うことにした。


(ルーカス、修道士になってとっても良い顔つきになった。きっと予言者にならないとヨハル様に見向きもされないと思って不安だったのかもしれないわ)

 別れ際に見たルーカスの笑顔を思い出して自然と笑みがこぼれる。きっともうヨハルの愛情に不安を感じることはないだろう。
 背筋を伸ばして旅立ったルーカスのことを思い出していると、不意にイザークの姿が頭を過る。その瞬間、シンシアは眉尻を下げた。

(イザーク様はあれから元気、なのかな……)


 ネメトンから宮殿へ帰還した後、シンシアは中央教会へリアンと共に帰された。それ以来、イザークとは一度も会っていない。

 教会へ帰される直前にシンシアは自分の身がどうなるのか本人に尋ねた。不敬を働いた上、呪われたとはいえ猫の姿でイザークを欺していたのだ。すぐに処刑されてもおかしくない。

 身構えていると、イザークはこちらに背を向けたまま「何も咎めることはない」とそれだけ言い残してその場から去ってしまった。


 彼のことを好きだと気づかなければ、絶対にこの状況を喜んだと思う。
 しかし今のシンシアは違う。彼に抱いてしまったこの感情を無視できない。だから彼にもう一度会いたかった。

(事情を説明してきちんと謝りたいけど、あれからヨハル様経由で謁見をお願いしてもやんわり断られてる)

 深い溜め息を吐いていると気づけば目的の場所――泉の前に到着していた。
 相変わらず泉は淀んでいて瘴気が発生している。

 物思いに耽りながらじっと観察していると、突然横から狐の姿をした魔物がシンシアに襲いかかってきた。

 くわっと開いた口には何本もの鋭い牙が揃っている。下手をすれば腕を噛みちぎられそうだった。

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