呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「わたくしには誰にも言えない悩みがあるのです。それは、好きな人がいること。兄妹は知っていますが両親はまだ知りません」
「そうですか」

 貴族の令嬢に多いのだが、ここを恋愛相談室と思っている人が一定数いる。

(うーん、ここは罪を告白する場であってお悩み相談室ではないのだけれど。貴族令嬢という立場を考えれば、気軽に誰かに打ち明けられないものね。私が話を聞いて少しでも気持ちを楽にさせなくては)

 話を聞くに身分違いの恋だろうとリアンは推測する。
 アルボス教会の修道女としていろんな教会を転々としながら務めてきたが、身分違いの恋で悲しい運命を辿った恋人たちをいくつも目にしてきた。

 きっと今日来た彼女も、心に秘めた想いを誰かに話をしてどうすれば良いのかアドバイスを求めに来たのだろう。

「希望を捨ててはいけません。一先ず、ご両親に探りを入れてみてはいかがでしょう? その相手をご両親がどう思っているのか聞き出すのです」
「あ、両親は彼との結婚は絶対に喜んでくださいます。だって、軟派なお兄様の親友でありながらとっても有能な人ですから」

 相談者の女性は「彼は容姿も素敵なんです」と続けた。

「銀色の髪は月光のごとく美しく、黒曜石のような瞳はずっと見つめていたくなるほど神秘的。数年前までは眼鏡をしていらっしゃらなかったのですけれど、重要なポストに就いてからは片眼鏡をするようになってその姿がまた、はあぁぁ……とっても素敵な人」

 パネル越しに熱気と甘い吐息が聞こえてくる。

 リアンは苦笑するしかなかった。悩み相談ではなく、ただの惚気だったのだろうか。
 そう思った途端、今度は重苦しい溜め息が聞こえてきた。

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