呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 それから疲れたので部屋に戻ってくるとロッテが山羊のミルクを用意して待ってくれていた。彼女とはいろいろあったが今ではすっかり仲良くなっている。

「ユフェ様お帰りなさい。そろそろ戻ってくる時間だと思ってたわ」
『ただいまロッテ』
「今日はどこに行ってたの?」
『厨房に。明日料理人の子が私のために蜂蜜のパンケーキを作ってくれるの。とっても楽しみだわ』

 ロッテは微笑みながら山羊のミルクを猫用の皿に注いで出してくれた。
 散策して喉が渇いていたシンシアは、ありがたく山羊のミルクを飲み始める。すると、なんだか髭がむずむずと痒くなり始めた。

 ミルク皿から顔を上げて鼻の辺りをもごもごと動かす。それでも変な感じがするので前足を使って掻き始めた。

「あら、もしかして髭の辺りが痒いの?」
『うん。なんだかとってもむずむずする。変な感じ……』

 質問に答えると、ロッテはああっと声を上げてから手のひらにぽんと自身の拳を乗せた。

「ということは明日はきっと雨ですね。猫が顔を洗うと雨が降るってよく言うし」

 この髭のむずむずの正体は雨雲が近づいているからのようだ。
 たまにむずむずすることはあったがここまでの酷さではなかった。明日はどうも大雨になりそうだ。

(パンケーキを食べに厨房へ行くけど雨に毛が濡れるから近道で中庭は横切れないわね……)

 明日は厨房へ必ず行かなくてはいけない。近道せずに正規ルートで行くためにはここを何時に出れば良いだろうか。
 頭の中で計算していると、ロッテが「ということは……」と呟いた。

< 215 / 219 >

この作品をシェア

pagetop