呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 職人の技が光る金細工で装飾されたキングサイズのベッドに肌触りの良さそうなシルクの布団、遊べるようにと設置された高級木材製のタワー。さらに磨き上げられた猫用銀食器などなど。


 呆気にとられていると、イザークが優しく語りかける。
「おまえの名前を考えたんだが、『ユフェ』にしようと思う。いい名前だろう?」

 ユフェというのはティルナ語の言葉だとシンシアはすぐに分かった。日常的に精霊魔法を使う身としてはティルナ語は第二言語であり、すぐにアルボス語に変換される。

(でもユフェってアルボス語に訳すと『尊い』って意味だよね……何の捻りもないじゃない)
 正直なところ、センスの欠片もない名前だと思った。

「ユフェ。はあ、ユフェは尊い。尊いはユフェ」
 恋人に語りかけるかのような甘ったるい声を出してくるので、シンシアはイザークが見えないところで思いっきり顔を顰めた。

(なんか調子狂う。だってあの雷帝が猫一匹でこんなにメロメロになるなんて……おかしい。落差がありすぎてどっちが素なのか分からないわ。しかもまあまあティルナ語の発音が良いから癪に障るし!!)

 ティルナ語は発音が難しく、故に神官になれる者が少ない。
 神官になれても毎日真面目に発音練習をしなければいざという時に精霊魔法が使えない。それはシンシアも例外ではなく、毎日発音練習に励んでいた。

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