呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「うふふふ。毎回逃げ切られては堪りませんからね。手を打たせてもらいました。歴代聖女の中でもここまで往生際の悪い子は初めてです。もう少し私に楽をさせてくださいな 」


 追いついてきた修道女・リアンは歴代聖女の世話人だ。
 見た目は二十代半ばにしか見えない美しい彼女は実のところ結構な歳らしい。最近はやれ腰が痛いだの、やれ肩が凝るだのと口癖のように言っているが見た目のせいで本当かどうか甚だ疑問である。

「まさか古典的な手法に引っかかるなんて……一生の不覚よ」
 こんなロープ一本張った罠に掛かる馬鹿なんてなかなかお目にかかれない。
(うん、そんなめでたい馬鹿は私なんだけど)
 恨めしい様子でロープを睨んでいると不意に通路の方から声がした。
「シンシアは今日もとっても元気が良いですね」

 声のする方を見ると、紅茶色のマッシュボブに赤銅色の瞳の温厚そうな青年が立っていた。黒の祭服をきっちりと身に纏い、修道士であることが一目で分かる。
 さらに緑の生地に白の糸で刺した組紐文様の刺繍の肩掛けをしている。これは神官クラスのみ身につけることを許されている肩掛けで守護のまじないが施されている。


「……ルーカス」
 ルーカスはベドウィル伯爵家の三男坊で、シンシアがこの教会に拾われた四歳の時からの付き合いになる。出会った当時から彼のその優しげな面差しは変わらない。シンシアにとっては兄のような存在だ。
 神童と呼ばれた彼はその名の通り、史上最年少で修道士から神官になった。その活躍ぶりは幼馴染み同然のシンシアにとって誇りである。
 床に打ち付けた肩を摩りながら、シンシアはのそりと起き上がった。

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