呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 試しにイザークが女性に心酔しているところを想像してみた。が、別の意味で末恐ろしい結果となって背筋が凍りついた。これは顔がそっくりなだけの別人だ。
「うえっ」と言いながら舌を出したシンシアは、頭を振ると気を取り直して宮殿内を探索する。

 廊下は室内同様に煌びやかな空間になっていた。
 壁には百合の花を抱える乙女や鮮やかな色糸をふんだんに使った動物文様のタペストリーが掛けられ、至る所に象牙や金属の象眼細工が装飾されている。間隔を開けて置かれている飾り箪笥の上にはカットグラスや陶磁器などの工芸品がある。


 庶民感覚のシンシアからすれば触れるのも憚られる品々ばかりで絶対に近寄らないでおこうと距離を取って歩いた。

 装飾は豪華で見飽きないが長い廊下を真っ直ぐ進み続けるのは思いのほか苦痛だ。時折、猫好きの使用人がシンシアを発見して寄ってきては構ってくるので進捗はまずまずといったところだ。

(もう少し順調に進めたかったな。というか、使用人の出入り口は一体どこにあるの!?)


 このまま進み続ければ、皇族礼拝室や中央教会の聖職者との謁見室がある典礼エリアだ。エリアが違ってくるのでどこかに使用人の出入り口があるはずだ。が、歩き続けて次第に疲れが溜まってきたので、一度歩みを止める。

< 62 / 219 >

この作品をシェア

pagetop