呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 三人がいなくなったのを見届けた後、ロッテの方へと身体を向ける。

『ロッテ、大丈夫? 虐められてること、侍女長に報告した方が良いよ』
「……」
 ロッテは濡れた顔を手で拭い、立ち上がるとお仕着せの表面に付いた水気を払う。
 助けたのにまさかのだんまりを決め込まれて流石のシンシアも腹に据えかねた。

 何か言ったらどうなの、と尋ねようとするとチチッと短く鳴きながら小鳥が空から降りてきた。
 それはいつもロッテの頭に乗っている小鳥で、心配しているのか何度も地面を跳ねて鳴いている。
 ロッテは頬に張りついた髪を耳に掛けると暗い表情でこちらを見てきた。


「心配してくれてありがとう。だけど、もう私には構わないで」
『どうして? 独りで抱え込むなんて駄目よ。今は大丈夫でもいつか心が死んでしまうわ。それだと遅いのよ!?』

 考えを改めるようにシンシアが促せば、ロッテは苦しげに表情を歪めて潸然(さんぜん)と涙を流し始めた。

「やめて、話しかけないで。私は……私はもうあなたたちの言葉がほとんど分からないの」
『えっ!?』

 予期せぬ告白にシンシアは驚いて目を見開いた。
 どうしてそんな状況になってしまったのだろうか。初めて挨拶した日、ロッテとはまだ会話ができていた。そんな急に話せなくなるものなのだろうか。


(もしかして、動物の世話をするのが嫌だって言っていたのは言葉が理解できなくなっていたから?)

 だとすれば昨日のちぐはぐな通訳も合点がいく。
 シンシアはなんと声をかければ良いのか考えあぐねた。


「……意思疎通のできない私に何の価値があるの?」
 虚ろな瞳でぽつりと呟くロッテは頬を濡らしたまま、その場から走り去った。

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