呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 人間の言葉を話す猫など奇怪を極めている。だからイザークもキーリも目を白黒させていたのだ。ただ一人、ロッテだけは冷静だった。

「妖精猫は人間事情にも詳しく、あと妖精なので精霊魔法が使えるとも書かれていました。一族の中には作り話ではないかと怪しむ声もあったのですが、たった今本当であることが証明されました。数百年に一度の大発見です」

 率直な見解を口にするロッテに対して、シンシアは慌てふためいた。自分は魔物の呪いで猫にされた普通の人間で、そんな滅多にお目にかかれない存在ではない。
 訂正を入れようと口を開き掛けたが、喉の先まで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。


 まずここで自分が呪いを掛けられた人間だと告げれば速やかに中央教会の神官が呼び出され、解呪してくれるだろう。しかし解呪してもらったが最後、シンシアは元の人間の姿――つまりイザークが処刑したくて堪らない聖女に戻ってしまう。

 それだけは絶対に回避したい。
 このまま妖精猫と偽るか、人間であることを正直に申し出るか。
 心の中で葛藤が続く。

(心配している皆に迷惑掛けてしまったことを謝りたい。元気な姿を見せて安心させたい。――でもやっぱり解呪してもらうならイザーク様がいない、安全が保証されたところがいい)
 最後の最後でシンシアは命惜しさに黙殺することにした。


 ロッテの話を聞いて喜びの声を上げたのはイザークではなく意外にもキーリだった。
「なんと。ユフェ様がそんな希有な存在だったとは!」

 いつも生真面目で笑顔の一つも見せないのに珍しい。爽やかな笑みを零すキーリはすぐに我に返ると咳払いをして真顔になった。


「失礼しました。精霊を間近で拝見するのは初めてだったので。ランドゴル嬢もユフェ様も何か勘違いをされているようですが、陛下が先ほど『言うことは謝罪の言葉だけか?』と仰ったのは、ランドゴル嬢がどうして陛下を欺いたのかを正直に応えて貰うためですよ。だってあなたの口から事実を話しておけば陛下を欺いたことにはなりませんからね」

 キーリの言葉を聞いて驚いたロッテは不安げに顔を上げた。

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