恋愛境界線

「ところで、君は何を言いかけたんだ?……ホ?ゲ?よく聞き取れなかったんだけど」


そここそ……!そここそ、聞き流して下さい、課長!!


偏見はないとしても、一旦、勢いを削がれると口には出しにくいセンシティブな話題だけに、課長の性癖について再び訊ねる勇気はなくなってしまった。


「あー、そうそう、捕鯨(ほげい)です、捕鯨!」


「捕鯨?捕鯨がどうかしたの?」


あ、失敗した。


そうかもしれない疑惑がある本人の前で、鯨を音読みで連呼するなんて、どんだけ迂闊なのかと自分を呪いたくなる。


「えっと、つまり、捕鯨問題について、課長と軽くディスカッションしようかな、って」


「なぜ私が、君と捕鯨問題についてディスカッションしなければならないんだ」


まさか、まだ酔っ払っているのか?と、若宮課長は眉を(ひそ)めた。


「ですよね。ちょっと私の口が会話に迷子になったみたいで……」


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