恋愛境界線

そんな真面目な顔つきをされると、心配されてるのか嫌味なのか、判断がつかなくて困る。


そうなると、自然と次の言葉にも困ってしまって、何をどう切り出せば良いのか判らない。


「……それで、君はどうしたんだ?どこかに行く途中か?それとも、ここに何か忘れ物でも?」


「あー、えっと、課長に用事があったんですけど、何の用事だったか、ど忘れしちゃいました……はい」


「は?それは重要な案件じゃないだろうね?」


「ど忘れするくらいですから、多分そんなに大した用件ではなかったんじゃないかと……」


「ちょっと待ちなさい。君の言うことを信じるには不安が残る。きちんと思い出しなさい」


「そんなこと言われたって、思い出せないから"ど忘れ"と言うのであって、ですね」


若宮課長に反論していると、その後ろから、くすくすと控え目な笑い声が聞こえてきた。


「ごめんなさい。若宮さんと芹沢さんの会話を聞いてたら、つい……」


課長との言い合いにばかり気を取られてたけれど、室内にはまだ支倉さんが残っていたのを忘れてた……。



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