恋愛境界線

「いや、私が頼んだんだから、きちんと払うよ。他に、君は何を買ったんだ?」


「私は明日の朝に食べようと思って、ヨーグルトを。課長の分もありますからね」


「じゃあ、お駄賃代わりのそれを含めて」と、若宮課長が千円札を私に手渡してきた。


「それなら、おつりを渡しますから、ちょっと待って下さい」


「それくらい、いいよ」


私がお金を払うのも、おつりを返すのも、「いいよ」と言う。


「男の人って、どうして奢られるより奢りたがるんですか? さっきだって――」


つい、「さっきだって」と洩らしてしまった私に、若宮課長が不可解そうな顔をした。


「さっき? もしかして、今夜芹沢君と一緒だったのは、友達じゃなくて男性?」


『友達と夕飯を済ませて帰ります』と送ったメールで、まるで私が嘘を吐いたかの様な言い方に慌てて否定する。


「違います。本当に友達です!純ちゃんと、あとは渚も来たので、三人で」


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