彼女は溺愛されていることを知らない
 私は一つ息をついて彼に振り返った。

 一八〇センチの高身長の彼、三浦拓也(みうら・たくや)第二事業部部長が階段の途中で足を止めて私を見上げている。

 やや長めの黒髪の彼は切れ長の目を鋭くさせていた。すぐにでも叱責が飛び出しそうなへの字の口は罵詈雑言砲だ。彼がその気になったら私のような格下社員はひとたまりもない。

 でも、この人うちの女子社員に人気があるんだよね。

 三浦部長は口の悪さを十分にカバーできるルックスの持ち主だ。女子社員の中には彼とお近づきになりたいがために口実を作り第二事業部を訪れる者さえいる。三浦部長が社員食堂を利用したときには彼のまわりが女子社員だらけになるという噂まであった。

 けど、私には口うるさい上司だ。
 
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