廓の華
目線を逸らさずに尋ねると、警戒した様子の彼はおずおずと口を開く。
「つけ回す真似をしてすみません。俺は遊郭の近くの奉行所に勤めている蘇芳といいます」
ふと、昨夜の記憶がよぎった。
そういえば、揚屋の騒ぎが起きたとき、花街に出入りする人混みの中に目の前の彼と似た男がいた気がする。〝あの子〟が親しげに話をしていた町医者の隣にいたような。
仕事柄、記憶力には昔から秀でていた。顔や名前を覚えるのも得意だ。
「どうして俺を追ってきたんだ?」
「あなたが牡丹さんの客だからです」
揚屋の一件で少し注目を浴びてしまった。あの子と花街に消えたのを見られたのだろう。
それとも、俺がカタブツだという例の噂を聞いたのか? 町医者の顔馴染みであるならば、その可能性が高い。
噂が思ったよりも広がっているようで心外だが、彼が声をかけてきたのはそれがあったかららしい。
「お願いです。牡丹さんを身請けしてあげてくれませんか」