闇に溺れて、愛を知る
“これくらいのこともできないの?”



また始まる地獄の日々


慣れてはいけないと分かっているが
どうしても慣れるもので。



次にされることも分かってくるようになった




“あんたなんかね、生きてるだけ無駄なのよ!!”




ほらね。聞き飽きた言葉を幾度となく浴びせられる



人は限界を越えると感情というものを失うらしい




とうに私がそうである


初めは苦しみ 悲しみ 辛さ 痛み


負の感情がみなぎっていた



しかし今は何も感じなくなった

いや、感じれなくなったんだ



人はいう

人間は時に諦めも必要だと



しかしこの女は諦めという言葉を知らない



毎日のように同じことを繰り返し

ストレスの捌け口をこちらに向け

暴言暴力が日常と化してきた



“なによっ!その目は!!”


また言いがかりをつけて自分を正当化する



どうせ醜い人間なんだ



自分を守るので精一杯な大人を親として

見る子どもの気持ちを考えたことはないのか



人は恐怖は怒りに変わりかねないということがある

しかし私は思う


恐怖も怒りもその先にあるものは〈無〉なのだ


何にも感じなくなり、光を失うこと



その姿は見る人を絶望させるようなそんな姿


“いつまでそこに居座ってんのよ!”

“早くこの家から出なさいよ!二度と顔を見せないで頂戴!!イライラする!”


ついさっきまでこの女に殴られていたボロボロの体をゆっくりと床から起こし体を支えながら
自室に戻った



早くこの家を出なければ

今度は何をしでかすか分からないのがあの女だ

今までは奴隷以下の扱いをして私を家という地獄に拘束しておいたくせに

気に入らないことがあるとすぐに追い出す 


追い出すなら早くからしてくれればこんなことにならずに済んだのに


まぁ過去を悔やむより未来を羨む方がよっぽどましだ


なんせ、私は今日あの瞬間でこの家の奴隷でも家来でもなくなった


早くこの家の仕切りを跨いで外の世界へ行くんだ



そう決意し、荷物をまとめて小さなバッグひとつで家を出た



出来るだけ遠くに行きたくて無我夢中で
呼吸すら忘れて一歩でも前へ走った




気づけば夜の街へと来ていた




ネオンが煌めき、大人が優雅に過ごすこの街で

あの女の奴隷しかさせてもらえなかった自分に何が出来るのか




不安を抱えながら表通りから少し外れた裏通りに座り込んだ



どうにかして生計を立てなければ


今ここで死んだらあいつの思う壺だ


荒い呼吸を必死に整えて頭に酸素を送り込む


俯き考えていたら足音が目の前で止まった



「何してる」



私は答えることが出来なかった




「答えろよ」


言葉から伝わる圧を体で感じて
視線を向けた


[....ハァハァ]


整わない呼吸を必死に整えて相手を認識した


短髪の綺麗な髪の隙間から見える綺麗なブラウンの瞳 筋の通った綺麗な鼻 時折見えるシルバーのピアス


美男子だった_____ただ一つを除いては


それは彼の瞳が私に危険を知らせていたことだ




このままここにいては殺されてしまう





[逃げてる....]



「は、お前どこの輩だよ!!」


私の答えを聞くなら急に目つきが鋭さを増した


訳の分からないことを言われちんぷんかんぷんだった


[なんのことっ]

「とぼけるな!ここはうちの域だ!」

何を怒っているんだ?この人。


[何を勘違いしてるの?]

[私はただあの、、、悪魔から逃げ出しただけ]


そう答えて再び下を向いた


ついさっきまでのことが脳裏に鮮明に浮かぶ

あんな思い二度としたくない


「、、っ!!」

急に男が黙った


そして次の瞬間ギリギリで繋ぎ止めていた感情が崩れだす音がした

「お前は何に怯えてるんだ?」


何に、、、ってそんなの








あの悪魔だ。人間の皮を被った醜い悪魔




また殴られる?次は命はない


嫌だ…まだ死にたくない!



そう思えば思うほど体が拒絶反応を起こした


「…辛かったな、、、」



「安心しろ。俺と生きればそいつの心配なんかしなくていい」



そう言って伝わってくる男の温もり


そんな温もりにも突発的に拒絶してしまい


[いやっ!!]


咄嗟に声が出てしまった


「!!!」

男は驚いた顔で見つめていた



[ごめんなさい、、でも、、もうっ]

関わらないで 


そう言おうとしたら一段とキツく抱きしめられた




「そんな助けてくださいって顔してるのに

思ってもないこと言うなよ」


[....]

「帰ろう。俺の家に」



この男に見透かされていることが

怖かった。


いや、この男だけじゃない



私はあの悪魔に飼われている間に



人間というものに対する信頼を全て闇に捨てたのだ




自分に対する信頼さえ


突然体がふわっと浮いたと思えばいっそう熱を近くで感じる距離まで抱かれていた


そのままその男は道に横止めされている黒のセダンに乗り込んだ



私を抱えたまま


車内で抱かれたまま気づいたら気を失っていた























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