皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

そう言ってうなじに回っていた指先に力が加わり、コツンと額が合わせられた。それから私が口を開く前に、ゆっくりと彼の頬が傾いて――

ブランデーの香りのする唇が優しく重なる。

逃げようと思えば逃げられた。突き飛ばそうと思えば拒めるほど優しい拘束力。

なのに、こうして唇が重なるのがいとも自然な流れかのように、言葉を交わすためにくり抜かれたその穴から、彼の唇の体温を感じた。

布の隙間から啄むように幾度も重なり、温度を分け合うように柔らかく。

まるで媚薬のように脳を麻痺させ、私を見つめたままにキスを続ける漆黒の瞳からそらすことが出来ない。

こんなに甘いキスははじめてだ。緩い抱擁に体重を預ける私は、彼に惹かれているという事実から、もう目を背けることはできない。

やがて、しっとりした音が響くようになったころ、ようやく唇が開放された。


「⋯⋯これは了承のサインてことでいいの?」


耳元に触れた艶っぽい声。ずくん、と身体の奥が震えそうになる。

名前も知らない人と。それもどんな素顔をしているかわからない人と一緒に過ごしたいと思うなんて……私はどうかしている。
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