皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

「そんなに探していたなら申し訳なかった。あの場に俺が行けば参加者が気遣うと思い、薬で色を変えていたんだ――⋯⋯まぁ結果、お前は随分と“私”をお気に召したようだが」

「――!!」


頭にカッと血が上る。最低にもほどがある。人の気持ちを弄んで。バカにしていたんだ。許せない。

肘掛けにゆるりと体重を預け微笑んでいる男を、息荒く睨みつけた。


「そう、怒るな。争うために呼んだわけではない」

「――――」

「なぜここまで呼ばれたのか、お前も分かっているだろう」


なだめるように口にした彼は、ゆっくりと玉座を降りてきた。美しい体躯に纏うジャケットを揺らし、有無を言わさぬ鋭い眼光を携えて。じりじりと近づく。

そして――


「――お前のお腹には子供が宿っていることを、俺は知っている。」


そう言い当てると、私を壁際へと追い込み、両手を顔の横についた。自然と近づいく暴力的なまでの美貌とその色気に、無意識に心臓がどくどくと音を立てる。


「よって、アイリス。お前を俺の皇妃(きさき)として迎え、子供を世継ぎとする。――残念ながらこれは決定事項。ここに来る前の議会でも承認済みだ。お前も聞いてはいるだろうが、俺は、婚儀はもちろん、候補者も据え置いていない。官僚たちは喜んでいた」


さらりと揺れる漆黒の前髪の奥で、神秘的な黄金色がカーブを描く。

予想通りの台詞と、それ以上の周到さに、まさに唖然だ。
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