秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「天音。一緒にいられない、じゃなくて、俺は君の心が知りたい。君が好きだ。ずっと会いたくて、またこの手で触れたかった」

 相良さんの大きな手が私の頬を滑り、髪に差し込まれる。この手に頬を寄せ、私も同じ気持ちですと告げられたらどれほどよかっただろう。

 あなたを好きじゃないなんて、嘘でも言えるはずがなかった。

 私は決死の思いで相良さんの手を取り、押し返す。

「私は相良さんの気持ちには応えられません」

 気丈に振舞いたかったけれど、吐き出した声はひどく震えていた。

「すみません。できるだけ早くここから出ていきます……」

 そう言った私は、相良さんを置いてゲストルームへ向かう。ゲストルームに入り、ドアを閉めると、堪えていた涙が堰をきって溢れ出した。

 眠っている恵麻を起こさないように、私はその場にしゃがみ込んで顔を膝に押しつける。

 これでいい。私には恵麻と、三人で過ごした思い出たちがある。今がどれだけつらくても、いつかは時間が解決してくれるから。

 そう思うのに、涙はなかなか止まってくれなかった。
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