秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「もう遅いのに、まだ帰ってなかったのか」

 柔らかな低い声がする。歩道にあった鉄柵を軽く跨いでこちらにやってくるのは、相良さんだった。

 また会うなんて。……それもこんなときに。

 当惑する私をよそに、仕事終わりなのかスーツ姿のままの相良さんは、私の頭のてっぺんから足先にかけて視線を流す。装いでなにかを感じ取られてしまったのか、彼の顔がいささか険しくなった。

「どこへいくところ? その荷物、家じゃないよね」

「それは……」

 すぐに答えない私に、相良さんがさらに距離を詰めてくる。すぐそばまで近づいてきた彼は、いつのまにかずり落ちそうになっていた恵麻のニット帽をそっと直してくれた。

「事情はわからないけれど、君が困っているなら力になりたいんだ」

 彼の心配するような声色に、切ない思いに駆られる。

 大事な家族がいるのに、こんなふうに優しく気にかけたりしないでほしい。

 私は唇を強く結んだ。
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