偏にきみと白い春

 今日、成績が返ってくる日だって知っていて帰ってきたのだろうか。カバンの中にいれておいた丸めた成績表をきちんと広げておかないといけない。

 うちのお母さんとお父さんは仲が悪い。口喧嘩はもう日常茶飯事だ。ほんのささいなことで、すぐにぶつかり合う。

 お父さんがめったに家に帰ってこなくなったのもきっとそのせいだと思う。

 帰って来ても喧嘩ばかり。正直帰ってきたくないんだと思う。私だってこんな家に帰ってきたくないのに、大人のお父さんが帰って来たいと思うはずもない。


 昔は、仲のいい3人家族だった。


 それを変えたのは、紛れもなく私のせい。私のせいで家族がバラバラになってしまった。それをちゃんと、ハッキリ、私はわかってる。


「オマエがあの子を……綾乃をちゃんと見ておかないからだろう!」

「私だって母親としてやれることはやっているわよ!」


 視線を下に向げた。目の前では名前なんて久しく呼ばれていないのに、2人の喧嘩には私の名前がよく飛び交う。

 とっさに近くにあった参考書を開いて机に座った。イヤホンをつけて、大音量で音楽を流す。


 問題を解くと、何もがすくわれる気がした。勉強に集中すると、他の物が何も気にならなくなる。この世界から、抜け出せたみたいな気分になれる。


 私は勉強が好きなわけじゃない。
だけど、勉強をしているときが多分一番落ち着いていられるんだと思う。

 勉強という逃げ道しか、私にはない。

 私の存在を肯定してくれるのは、たぶんあの丸めた成績表に写った『1』の文字。ただそれだけだ。
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