偏にきみと白い春
「その様子じゃ本当に気づいてなかったんだ」
「え、ちょっと、理解できない……」
「おれ、けっこーわかりやすいって言われるんだけどなあ」
「わかりやすい?」
「うん。たぶん、おれが綾乃のこと好きなのなんて、みんな知ってると思うけど」
「ええ……」
なんだそれ。つまり私って、すごく鈍感? 人の気持ちに無頓着?
「合唱コンのオーディションで、綾乃の歌声を聞いたときから、きっとずっと綾乃に惹かれてた。───今もずっと、どうやったらおれの彼女になってくれるかなって、考えてる」
なにそれ、ずるい、ずるいのはずっと、領の方だ。
「……領、」
「うん?」
「彼女、になりたい」
「うん」
「領の、彼女になりたい」
「うん、なって」
ぎゅっと、後ろから抱きしめられる。ふわりと香る領のにおい。骨張った固い腕。背中に感じるあたたかさ。耳元で聞こえる息遣い。
どうしよう。わたし、いとおしい、という言葉の意味を、知ってしまった。