偏にきみと白い春


「その様子じゃ本当に気づいてなかったんだ」

「え、ちょっと、理解できない……」

「おれ、けっこーわかりやすいって言われるんだけどなあ」

「わかりやすい?」

「うん。たぶん、おれが綾乃のこと好きなのなんて、みんな知ってると思うけど」

「ええ……」



なんだそれ。つまり私って、すごく鈍感? 人の気持ちに無頓着?





「合唱コンのオーディションで、綾乃の歌声を聞いたときから、きっとずっと綾乃に惹かれてた。───今もずっと、どうやったらおれの彼女になってくれるかなって、考えてる」





なにそれ、ずるい、ずるいのはずっと、領の方だ。







「……領、」

「うん?」

「彼女、になりたい」

「うん」

「領の、彼女になりたい」

「うん、なって」




ぎゅっと、後ろから抱きしめられる。ふわりと香る領のにおい。骨張った固い腕。背中に感じるあたたかさ。耳元で聞こえる息遣い。




どうしよう。わたし、いとおしい、という言葉の意味を、知ってしまった。



< 169 / 175 >

この作品をシェア

pagetop