偏にきみと白い春



「おーはよっ!」


 誰もいない下駄箱。今日はいつもより少し早く家を出たから、大分早く学校に着いてしまったと思ったんだけれど。

 朝から屈託のない笑顔でそう言って私の背中を勢いよく叩いたのは、あの高城領だった。

 ビックリして顔が固まったのも無理はないと思う。

 だって、私は領の前で大声を張り上げたんだもの。普段の私のイメージからして、絶対にありえないこと。

 再び声をかけられる日が来るなんて思わなかった。というかむしろ、イジメにでもあうんじゃないかってビクビクしてたっていうのに。


「おーい? 綾乃? おはよって言われたらおはよって返してよー!」


 クラスにいる時と同じテンションで言う高城領は、私の目を見つめてそう笑う。その屈託のない笑顔にウソは一つもないみたいに見えるから困る。

 周りに人がいなくてよかった。高城領のファン……というより、彼にはとにかく友達が多いから、2人で話しているところを見られてやっかみを買うなんて事だけは避けたい。

 昨日、初めて私は私のイメージを人前で壊した。物静かで、ひとりが好きな優等生。そんな私のイメージを。ひかれて、当然だと思ってたのに。

 まさか、まだ話しかけて来るなんて思ってもみなかった。



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